保険給付①
保険給付の種類
労災保険法の保険給付は、大きく「業務災害に関する保険給付」「複数業務要因災害に関する保険給付」「通勤災害に関する保険給付」「二次健康診断等給付」の四つから構成される。
通勤災害や複数業務要因災害に関する保険給付は、業務災害に関する保険給付とほぼ同様の内容だが、通勤災害は、労働基準法等に規定する災害補償の事由ではなく、使用者に補償責任はないことから、通勤災害に関する保険給付の名称については「補償」という文字は用いられていない。
また、複数業務要因災害に関しても、複数の就業先の業務上の負荷を総合して評価することにより認定されるものであり、それぞれの就業先の業務上の負荷のみでは業務と傷病等との間に因果関係が認められず、それぞれの就業先の使用者に補償責任はないことから、複数業務要因災害に関する保険給付の名称についても、「補償」という文字は用いられていない。
本章では、業務災害・複数業務要因災害・通勤災害に関する保険給付をまとめて「〇〇(補償)等給付」のように「補償」をカッコ書きにして「等」をつけて表記し、主に業務災害に関する保険給付を中心に解説する。
療養(補償)等給付
給付の種類
療養(補償)等給付は療養の給付(現物支給)が原則とされるが、それが困難な場合などには療養の費用の支給(現金支給)が行われる。
1. 療養の給付
「療養(補償)等給付は、療養の給付とする。療養の給付は、社会復帰促進等事業として設置された病院若しくは診療所又は都道府県労働局長の指定する病院若しくは診療所、薬局若しくは訪問看護事業者(「指定病院等」)において行う。」
つまり、「療養(補償)等給付」は、「療養の給付」として、指定病院等で現物給付されるのが、原則となる。
2. 療養の費用の支給
「政府は、療養の給付をすることが困難な場合又は療養の給付を受けないことについて労働者に相当の理由がある場合には、療養の給付に代えて療養の費用を支給することができる。」例外的に現金給付することも認められている。
療養の給付と療養の費用の支給のいずれかを受けるかが、労働者の選択に委ねられているのではない。
給付の範囲
「療養の給付の範囲は、次の1-6(政府が必要と認めるものに限る)による。」
- 診察
- 薬剤又は治療材料の支給
- 処置、手術その他の治療
- 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
- 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
- 移送
支給期間
療養の必要が生じたときから、傷病が治癒するか、又は死亡して療養を必要としなくなるまで支給される。
「治癒後」には、療養(補償)等給付や休業(補償)等給付や傷病(補償)等年金は支給されない。
請求手続き
1. 療養の給付に係る請求手続
療養の給付を受けようとする者は、所定の事項を記載した「療養(補償)等給付たる療養の給付請求所」を、当該療養の給付を受けようとする指定病院等を経由して所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
2. 療養の費用の支給に係る請求手続
療養の費用の支給を受けようとする者は、所定の事項を記載した「療養(補償)等給付たる療養の費用請求書」を、直接、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
ただし、当該者が施術所のうち都道府県労働局長が定めるもの(「指名施術所」)において治療を受ける場合には、当該請求書を、当該指名施術所を経由して所轄労働基準監督署長に提出できる。
3. 事業主・診療担当者の証明
1,2の請求書に記載する事項のうち、「負傷又は発病の年月日(業務災害・通勤災害の場合)」「災害の原因及び発生状況(業務災害の場合)」などの事項については、事業主の証明を受けなければならない。ただし、複数事業労働者については、「非災害発生事業場の事業主」や「通勤災害に係る事業主以外の事業主」からは、証明を受ける必要はない。
また、2の請求書に記載する事項のうち、「傷病名及び療養の内容」「療養に要した費用の額(原則)」については、診療担当者の証明を受けなければならない。
「傷病名及び診療の内容」「療養に要した費用の額(原則)」について「診療担当者」の証明が必要なのは、「療養の費用の支給」に係る請求書である。
療養給付の一部負担金
「政府は、次の1-4に掲げる者を除き、療養給付を受ける労働者から200円(健康保険法に定める日雇特例被保険者である労働者については100円)を一部負担金として徴収する。」
- 第三者の行為によって生じた事故により療養給付を受ける者
- 療養の開始後3日以内に死亡した者その他休業給付を受けない者
- 同一の通勤災害に係る療養給付について既に一部負担金を納付した者
- 特別加入者
業務災害により療養補償給付又は複数業務要因災害により複数事業労働者療養給付を受ける労働者からは、一部負担金は徴収されない。
休業(補償)等給付
支給要件
「休業(補償)等給付は、労働者が業務上の事由、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による負傷又は疾病に係る療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第4日目から支給するものとし、その額は1日につき給付基礎日額の100分の60に相当する額とする。」
1. 療養のためであること
休業(補償)等給付は、「療養」のために休業している場合でないと支給されない。したがって、治癒後の処置(いわゆる外科後処置)により休業している場合には、支給されない。
2. 労働不能であること
「労働することができない」とは、必ずしも負傷直前と同一の労働ができないという意味ではなく、一般的に働けないことをいう。したがって、軽作業に就くことによって症状の悪化が認められない場合、あるいはその作業に実際に就労した場合には、労働不能とは認められない。ただし、通院等のため、所定労働時間の一部について労働する場合には、労働不能(一部労働不能)と認められることがある。
3. 賃金を受けない日であること
「賃金を受けない日」とは、金額を全く受けない日はもちろん、「平均賃金の60%未満の金額しか受けない日」も含まれる(全部労働不能の場合)。
4. 待機期間を満了していること
休業の最初の3日間は、待機期間とされ、休業(補償)等給付は支給されない。この待機期間は継続している必要はなく、また、その間金銭を受けていても成立する。
休業(補償)等給付は、その支給要件に該当する限り、休日又は出勤停止の懲戒処分を受けた等の理由で雇用契約上賃金請求権を有しない日についても支給される。
支給額
1. 全部労働不能の場合
所定労働時間の全部について労働不能である場合は、原則として、1日につき「給付基礎日額」の100分の60に相当する額が支給される。
2. 部分算定日の場合
所定労働時間のうちその一部分についてのみ労働する日若しくは賃金が支払われる休暇(「部分算定日」)又は複数事業労働者の部分算定日については、1日について「給付基礎日額から部分算定日に対して支払われる賃金の額を控除して得た額(賃金を受けなかった部分に対応する給付基礎日額)」の100分の60に相当する額が支給される。
支給期間
休業の第4日目から、休業日が継続していると断続しているとを問わず、実際の休業日について休業の続く間支給されるが、傷病(補償)等年金を受けることとなった場合は打ち切られる。
休業(補償)等給付の支給制限
「労働者が次の1,2のいずれかに該当する場合(厚生労働省令で定める場合に限る)には、休業(補償)等給付は、行わない。」
- 刑事施設、労役場その他これらに準ずる施設に拘禁されている場合
- 少年院その他これに準ずる施設に収容されている場合
傷病(補償)等年金
支給要件
「傷病(補償)等年金は、業務上の事由、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかった労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後1年6か月を経過した日において次の1,2のいずれにも該当するとき、又は同日後次の1,2のいずれにも該当することとなったときに、その状態が継続している間、当該労働者に対して支給する。」
- 当該負傷又は疾病が治っていないこと
- 当該負傷又は疾病による障害の程度が傷病等級に該当すること
①傷病(補償)等年金は、労働基準監督署長の職権により支給が決定されるのであって、労働者の請求によって支給が決定されるのではない。 ②傷病(補償)等年金の支給要件に係る「障害の程度」は、6か月以上の期間にわたって存する障害の状態によって認定される。
支給額
傷病(補償)等年金の支給額は、傷病等級に応じ、次の額とされている。
- 第1級: 1年につき給付基礎日額の313日分
- 第2級: 1年につき給付基礎日額の277日分
- 第3級: 1年につき給付基礎日額の245日分
労働基準法の打切補償との関係
「業務上負傷し、又は疾病にかかった労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷病補償年金を受けることとなった場合には、労働基準法の解雇制限の規定の適用については、当該使用者は、それぞれ、当該3年を経過した日又は傷病補償年金を受けることとなった日において、同法の打切補償を支払ったものとみなす。」とされ、解雇制限が解除される。
複数業務要因災害や通勤災害による傷病により複数事業労働者傷病年金や傷病年金を受ける者については、打切補償のみなし(解雇制限の解除)の規定が適用されることはない。