基本理念等


基本理念等

労働条件の原則

労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすべきものでなければならない。」

これは、日本国憲法25条1校の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という規定と同様の宣言的規定と言える。

「労働基準法で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。」

労働条件の決定

「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべき者である。労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。」

法1条と2条違反について、罰則の定めはない。

  • 労働協約: 労働組合と使用者又はその団体との間に結ばれる労働条件などに関する協定のこと。
  • 就業規則: 労働者が就業上守るべき規律や労働条件などについて、使用者が定めた規則のこと。
  • 労働契約: 個々の労働者と使用者が結んだ、一定の労働条件の下で労働力を提供することを約する契約のこと。

労働者の人権保障

均等待遇の原則(第3条)

「使用者は、労働者の国籍信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」

  • 信条: 特定の宗教的又は政治的信念のこと
  • 社会的身分: 生来的な地位のこと

労働条件とは、職場における労働者の一切の待遇をいう。賃金、労働時間のほか、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件も含まれるが、採用は含まれない。

「差別的取扱」には、不利に取り扱う場合のみならず有利に取り扱う場合も含まれる。

男女同一賃金の原則(第4条)

「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。」

「女性であることを理由として」には、社会通念として又はその事業場において女性労働者が一般的又は平均的に能率が悪いこと、勤続年数が短いこと、主たる生計の維持者ではないこと等を理由とすることも含まれる。

「賃金」とは、賃金額だけでなく賃金体系、賃金形態等を含むので「男性は月給制、女性は日給制」とするようなことも本条違反となる。

強制労働の禁止(第5条)

「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。」

ここで「労働を強制する」とは、不当な手段を用いることにより労働者の意識ある意思を抑圧し、その自由な発現を妨げ、労働すべく強要することをいい、必ずしも現実に労働することを必要としない。

本条違反については、「1年以上10年以下の拘禁刑又は20万円以上300万円以下の罰金(法117)」という労働基準法上最も重い罰則が課せられる。

中間搾取の排除(第6条)

「何人も、法律に基いて許される場合のほか、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」

ここでいう「法律」とは、職業安定法及び船員職業安定法のこと。ただし、これらの法律に違反して、職業紹介等でこれらの法律に定める料金等を超えて金銭等を収受すると、本条違反となる。

労働者派遣については、他人の就業に介入したことにならないとされ、それが違法であったとしても、本条違反とはならない。

他人の就業に介入して得る利益の帰属主体は、必ずしも当該行為者に限られない。従って、法人の従業者が違反行為を行い、その従業者が現実に利益を得ておらず、法人が利益を得ている場合であっても、その従業者について違反が成立する。

公民権行使の保障(第7条)

「使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。」

つまり、使用者は、労働者が労働時間中などに選挙に行ったり、裁判の承認として出廷するために必要な時間を請求した場合には、拒むことができない。実際に権利が行使されたかどうかに関わらず、拒んだだけで違反になる。なお、その時間を有給にするか無給にするかは当事者の自由に委ねられ、無給でもよいとされる。

公民としての権利に該当するものの例(❌は該当しないものの例):

  • 選挙権及び被選挙権

  • 最高裁判所裁判官の国民審査

  • 地方自治法による住民の直接請求

  • 選挙人名簿の登録の申出

  • ❌応援のための選挙活動

  • 行政事件訴訟法に規定する民衆訴訟

  • 公職選挙法に規定する選挙等に関する訴訟

  • ❌一般の訴権の行使

公の職務に該当するものの例(❌は該当しないものの例):

  • 衆議院議員等の議員の職務
  • 労働委員会の委員、検察審査員、労働審判員、裁判員、審議会の委員等の職務
  • 民事訴訟法の規定による証人の職務
  • 公職選挙法の規定による投票立会人等の職務
  • ❌予備自衛官の防衛招集・訓練招集
  • ❌非常勤の消防団員の職務

適用事業

労働基準法は、ほとんど全ての「事業(事業場)」に適用される。「事業」は、「場所単位の作業体」を意味する言葉。Aという会社の本店が東京都にあり、支店が千葉県にあれば、本店と支店は別々の事業として、労働基準法が適用される。

適用事業の範囲

労働基準法は、原則として全ての事業について適用される。 主要な事業の種類については、便宜上、1号から15号の業種に分けているが、これらの事業にのみ適用されるのではない。

  • 1号: 製造業
  • 2号: 鉱業
  • 3号: 建設業
  • 4号: 運輸交通業
  • 5号: 貨物取扱業
  • 6号: 農林業
  • 7号: 水産・畜産業
  • 8号: 商業
  • 9号: 金融広告業
  • 10号: 映画・演劇業
  • 11号: 通信業
  • 12号: 教育研究業
  • 13号: 保険衛生業
  • 14号: 接客娯楽業
  • 15号: 清掃・と畜場業

適用事業の単位

労働基準法は、同一場所にあるものは、原則として一個の事業として適用され、場所的に分散しているものは、原則として別個の事業として適用される。

ただし、工場内の診療所などのように労働の態様が著しく異なるときは、これを切り離して独立の事業とすることがある。反対に、出張所などで著しく小規模で独立性のないものについては、直近上位の機構と一括して1つの事業とすることもある。

適用除外

「労働基準法は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。」

適用除外 適用
同居の親族のみを使用する事業 常時同居の親族以外の労働者を使用する事業
家事使用人 旅館や料理店のお手伝いさん
一般職の国家公務員 独立行政法人国立印刷局や独立行政法人造幣局などの行政執行法人の職員及びそれ以外の独立行政法人の職員
外交官等の外交特権を有する者 国内における外国人や外国法人が経営する事業、国内で就労する外国人労働者

例えば、父が社長、息子が従業員のような会社で両者が対立しても「労使対立」とは言い切れず、労働基準法は、そのような親族関係には立ち入らない。

  • 法人に雇われ、その役職員の家庭において家庭の指揮命令の下で火事一般に従事している者: 家事使用人
  • 個人家庭における家事を事業とする事業者の指揮命令の下に家事を行う者: 労働者

部分適用除外

  • 船員法の適用を受ける船員については、総則に関する規定の一部及びこれらに関する罰則規定等を除き、労働基準法は適用されない
  • 地方公務員のうち、一般職の職員については、労働基準法の規定の一部が適用されない

労働者と使用者の定義

労働者の定義(第9条)

「労働基準法で労働者とは、職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」

労働者とは、使用者の指揮命令を受けて労働力を提供し、その労働の対償として賃金を支払われる者(使用従属関係にある者)をいう。

労働者に該当:

  • 法人の重役で業務執行権又は代表権を持たず、工場長、部長の職にあって賃金を受ける者
  • 労働組合の専従職員
  • 新聞配達員

労働者に該当しない:

  • 個人事業主
  • 法人、団体又は組合等の代表者又は執行機関たる者
  • 下請負人
  • 同居の親族

使用者の定義

「労働基準法で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。」

人事部長、総務課長なども一般に含まれる。が、形式よりも実質的に一定の権限を与えられているかどうかによる。単に上司の命令の伝達者に過ぎない場合は使用者に該当しない。

特殊な就業形態における労働基準法の適用

労働者派遣と派遣労働者

労働者派遣とは、派遣元の使用者と労働契約を締結した労働者(派遣労働者)を派遣先の使用者の指揮命令の下で労働させる形態。基本的には派遣労働者と労働契約関係にある派遣元が使用者としての責任を負うこととされる。が、労働者派遣の実態から派遣元の使用者に責任を問い得ない事項等については、労働者派遣法による特例が適用され、派遣先に責任を負わせるものとされる。

出向と出向労働者

a. 在籍型出向

労働者が出向元との労働契約関係を維持しつつ、出向先との間に労働契約を締結し、一般に出向先において労務を提供する就業形態。出向元と出向先の双方とそれぞれ労働契約関係があるので、3者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて、出向元・出向先の使用者がそれぞれ労働基準法上の使用者としての責任を負う。

b. 移籍型出向

出向元と出向労働者との労働契約関係は終了し、出向先との間にのみ労働契約関係がある就業形態。出向労働者について、出向先の使用者のみが労働基準法上の使用者としての責任を負う。

ミニテスト

0/20問回答済み
Q1. 労働基準法第1条に関する記述として、正しいものはどれか。
Q2. 労働条件の決定(第2条)に関する記述として、正しいものはどれか。
Q3. 労働基準法で定める労働条件の基準に関する記述として、正しいものはどれか。
Q4. 労働契約に関する記述として、正しいものはどれか。
Q5. 労働協約に関する記述として、正しいものはどれか。
Q6. 均等待遇の原則(第3条)における「信条」及び「社会的身分」に関する記述として、正しいものはどれか。
Q7. 均等待遇の原則(第3条)に関する記述として、誤っているものはどれか。
Q8. 均等待遇の原則(第3条)における「差別的取扱」に関する記述として、正しいものはどれか。
Q9. 第3条の均等待遇の原則における「労働条件」に関する記述として、誤っているものはどれか。
Q10. 男女同一賃金の原則(第4条)に関する記述として、正しいものはどれか。
Q11. 男女同一賃金の原則(第4条)に関する記述として、正しいものはどれか。
Q12. 強制労働の禁止(第5条)における「労働を強制する」に関する記述として、正しいものはどれか。
Q13. 強制労働の禁止(第5条)に関する記述として、正しいものはどれか。
Q14. 中間搾取の排除(第6条)に関する記述として、正しいものはどれか。
Q15. 中間搾取の排除(第6条)に関する記述として、正しいものはどれか。
Q16. 公民権行使の保障(第7条)における「公民としての権利」に該当するものとして、正しいものはどれか。
Q17. 公民権行使の保障(第7条)に関する記述として、誤っているものはどれか。
Q18. 公民権行使の保障(第7条)における「公の職務」に該当しないものはどれか。
Q19. 労働基準法における「労働者」の定義として、正しいものはどれか。
Q20. 労働基準法の適用事業の単位に関する記述として、正しいものはどれか。