労働契約等
労働契約
労働契約の成立
労働契約法では、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」と規定されている。成立の要件として、書面等は必要ない。
労働基準法の強行的効力・直律的効力(第13条)
「労働基準法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、労働基準法で定める基準による。」
労働基準法は、労働条件の「最低の基準」を定めたもの。その基準に達しない労働条件を定めた労働契約がある場合、その達しない部分については「無効」となる。これを強行的効力という。その「無効」となった部分は、「労働基準法で定める基準」で補充されて引き上げられる。これを直律的効力という。
労働条件の明示
絶対的明示事項及び相対的明示事項
「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」
使用者は、労働条件を事実と異なるものとしてはならない。明示事項には、必ず明示しなければならない「絶対的明示事項」と、会社に定めがある場合には明示しなければならない「相対的明示事項」がある。
絶対的明示事項の2については有期労働契約であって当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限る。
絶対的明示事項:
- 労働契約の期間に関する事項
- 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む)
- 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(その変更の範囲を含む)
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
- 賃金(退職手当等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職(解雇の事由を含む)に関する事項
相対的明示事項:
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与その他これに準ずるもの並びに最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品等に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 休職に関する事項
契約期間内に無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結の場合に明示すべき事項
その契約期間内に労働者が労働契約法18条1項の無期転換申込みをすることができることとなる有期労働契約の締結の場合、次の事項についても明示しなければならない。
- 無期転換申込みに関する事項
- 無期転換申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件(無期転換後の労働条件)のうち、上述の「絶対的明示事項」及び「相対的明示事項(定めがあるもののみ)」
明示の方法
「賃金及び労働時間に関する事項その他の所定事項については、労働者に対する当該事項が明らかとなる書面の交付により明示しなければならない。」以下の事項の明示については、口頭では足りない。
- 絶対的明示事項。ただし、昇給に関する事項を除く
- 無期転換申込みに関する事項
- 無期転換後の労働条件のうち「絶対的明示事項」。ただし、昇給に関する事項を除く
「退職に関する事項」は絶対的明示事項(書面交付要)、「退職手当に関する事項」は相対的明示事項(書面交付不要)
労働契約の即時解除と帰郷旅費
「労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除(即時解除)することができる。この場合、就業のために住所を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費(帰郷旅費)を負担しなければならない。」
労働者の長期人身拘束の防止
労働契約の期間
資本主義社会の初期においては、労働者が会社を「辞めたくても辞められない」ようにするために長期の労働契約を結ぶということが行われていた。従来、労働基準法は、このような人身拘束の弊害を排除するために契約期間は原則として1年までとしてきた。
しかし、資本主義社会が成熟してきた今日では、むしろ「辞めたくないのに辞めさせられる」弊害が生じているため、契約期間の上限は引き上げられ、平成15年の改正により、現在では原則「3年」までとされている。
「労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(下記の労働契約にあっては、5年)を超える期間において締結してはならない。
10年の期間を定めて契約をしたような場合には、本条違反について使用者に対してのみ罰則が適用され、労働契約の期間については法13条により、3年又は5年に短縮される。
5年の上限となるケース:
- 専門的な知識、技術又は経験(「専門的知識等」)であって高度のもの(※)を有する労働者との間に締結される労働契約
- 満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約
※ただし、当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る
契約期間の上限の例外:
「一定の事業の完了に必要な期間を定める労働契約」については、3年(5年)を超える期間の労働契約を締結することができる。つまり、建設工事などの有期的事業の場合は、その完了までの期間の労働契約を締結することができる。
建設工事であって、その完了に10年かかるようなときは、10年契約でも良い。
労働者からの解約:
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る)を締結した労働者(契約期間の上限が5年とされている労働者を除く)であっても、当該契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
賠償予定の禁止
「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」
現実に生じた損害について損害賠償を請求することまで禁止されているのではない。
前借金相殺の禁止
「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。」
禁止されているのは、使用者の側からの相殺。労働者が使用者から人的信用に基づいて受ける金融や弁済期の繰上げなどで明らかに身分的拘束を伴わないものは、ここでいう、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権には当たらない。労働者が自己の意思によって相殺することは、本条では禁止されていない。
強制貯金
会社に雇う条件として社内預金をさせるようなこと(強制貯蓄)は禁止。労働者の委託を受けて社内預金するようなこと(任意貯蓄)は禁止されていない。ただし、任意貯蓄にも弊害防止規定はある。
「使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。」
「使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合には、法定の措置をとらなければならない。」
任意貯蓄には、使用者自身が預金を受け入れて直接管理する「社内預金」の場合と、使用者が受け入れた預金を労働者の名義で金融機関等に預入し、その通帳や印鑑を使用者が保管する「通帳保管」の場合がある。どちらの場合でも、次の措置が必要。
- 労使協定(貯蓄金管理協定)を締結し、行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出ること
- 貯蓄金管理規定を定め、これを労働者に周知させるため作業場に備え付ける等の措置をとること
- 労働者が貯蓄金の返還を請求したときは、遅滞なく返還すること
社内預金の場合、次の措置を加えなければならない。
- 労使協定(貯蓄金管理協定)に以下の事項を定めること: 預金者の範囲、預金者1人当たりの預金額の限度、預金の利率及び利子の計算方法、預金の受入れ及び払い戻しの手続、預金の保全の方法
- 1の事項及びそれらの具体的取扱いについて、貯蓄金管理規定に規定すること
- 毎年、3月31日以前1年間における預金の管理の状況を、4月30日までに、所轄労働基準監督署長に報告すること
- 年5厘以上の利率による利子をつけること
通帳保管の場合、貯蓄金管理規定に、所定の事項(預金先の金融機関名、預金の種類、通帳の保管方法及び預金の出入れの取次の方法等)を定めておく必要がある。
「労働者が、貯蓄金の返還を請求したにもかかわらず、使用者がこれを返還しない場合において、当該貯蓄金の管理を継続することが労働者の利益を著しく害すると認められるときは、行政官庁(所轄労働基準監督署長)は、使用者に対して、その必要な限度の範囲内で、当該貯蓄金の管理を中止すべきことを命ずることができる。この場合、使用者は、遅滞なく、その管理に係る貯蓄金を労働者に返還しなければならない。」
解雇
「解雇」とは、使用者の一方的意思表示による労働契約の解除であり、労働者の生活の糧を得る手段を失わせるものであるため、一定の規制が設けられている。
解雇制限
「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が法65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。」
契約期間満了により当然に労働関係が終了する場合は、たとえ労働者に辞める意思がなかったとしても「解雇」ではなく、労働者が業務用の傷病の療養のため休業している期間中に契約期間が満了した場合には、その契約が引き続き更新されたと認められる事実がない限り、労働者を辞めさせても、本条違反とはならない。
「使用者が、法81条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」は、法19条の解雇制限の規定は適用しない。ただし、「その事由について行政官庁(所轄労働基準監督署長)の認定を受けなければならない。」
業務上の傷病による療養のために休業している労働者が、療養開始後3年を経過しても傷病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の1,200日分の打切補償を行えば、解雇制限が解除され、その労働者を解雇したとしても法19条には抵触しない。この場合、所轄労働基準監督署長の認定を受ける必要はない。
天災事変その他のやむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合にも解雇制限が解除されるが、この場合は所轄労働基準監督署長の認定を受ける必要がある。なお、派遣労働者について、事業の継続が不可能であるかの判断は、派遣元の事業につき行われる。
労働者の責に帰すべき事由があっても、解雇制限は解除されない。
解雇予告
「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」
この「予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。」
つまり、例えば20日分の平均賃金を支払うのであれば、10日前の解雇予告でも足りる。
解雇予告と同時に休業を明じ、解雇予告期間中は平均賃金の60%の休業手当しか支払わなかった場合でも、30日前に予告がなされている限り、その労働契約は予告期間の満了によって終了する。
解雇の予告においては、解雇日について、「○年○月○日の終了をもって解雇する」等と特定しておかなければならない。予告期間の30日は暦日で計算し、その間に休日又は休業日があっても延長しない。例えば、5月31日に解雇するためには、遅くとも5月1日には解雇予告をしなければならない。ただし、5月31日に解雇する場合であっても、20日分の平均賃金を支払うのであれば、5月21日までに解雇予告することで足りる。
解雇予告は一般に取り消せないが、労働者が具体的事情の下に事由な判断によって同意を与えた場合には、取り消すことができる。労働者の同意がない場合は、予告期間の満了をもって解雇されることになり、自己退職(任意退職)の問題は生じない。
解雇予告をして、その予告期間が満了する前に労働者が業務上の傷病の療養のために休業した場合、法19条(解雇制限)により、制限期間中の解雇はできないことになる。ただし、その休業期間が長期にわたるものでない限り、解雇予告の効力発生が中止されたに過ぎず、改めて解雇予告をする必要はない。
解雇予告をして、解雇予定日を過ぎて労働者を使用した場合、同一条件で労働契約がなされたものとみなされ、その解雇予告は無効となり、その後解雇しようとするときは、改めて解雇予告等の手続きが必要になる。
解雇予告手当は賃金ではないが、解雇の申渡しと同時に、通貨で直接支払わなければならない。
「明日から来なくてもいい」というような場合、通達によれば「即時解雇」は無効とされるが、使用者が解雇する意思があり、その解雇が必ずしも即時解雇であることを要件としないと認められる場合、その通知は30日経過後において解雇する旨の予告として効力を有する。
最高裁も同様の立場であり、「法20条違反の解雇は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、解雇の通知後30日の期間の経過後から又は予告手当の支払いのあったときから解雇の効力が生ずる。
「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」においては、法20条の解雇予告の規定は適用しない。ただし、どちらの場合も「その自由について行政官庁(所轄労働基準監督署長)の認定を受けなければならない。」
なお、派遣労働者について、事業の継続が不可能であるかどうかの判断は、派遣元の事業について行われる。
即時解雇の意思表示をした後に解雇予告除外認定を受けた場合であっても、その解雇の効力は、使用者が(解雇予告除外認定を受けた日ではなく)即時解雇の意思表示をした日にさかのぼって発生する。
解雇予告の適用除外
「法20条の解雇予告の規定は、次の労働者については適用しない。ただし、それぞれ次の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合においては、この限りでない。」
- 日日雇い入れられる者(1か月を超えて引き続き使用されるに至った場合、解雇予告が必要)
- 2か月以内の期間を定めて使用される者(所定の期間を超えて同上)
- 季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用されるもの(所定の期間を超えて同上)
- 試の試用期間中の者(14日を超えて同上)
試用期間中の者は、就業規則で定めた試用期間の長さにかかわらず、14日を超えた時点で、解雇予告の規定が適用される。
退職時等の証明等
退職時等の証明
「労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(解雇の場合、その理由を含む)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。」
「労働者が、法20条1項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。」
「これらの証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。」
「使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は退職時等の証明書に秘密の記号を記入してはならない。」
照会に回答することは禁止されていない。
金品の返還
「使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。」
賃金については、賃金支払日が請求から7日目の日よりも前に到来する場合や、権利者からの請求がない場合については、所定の賃金支払日までに支払わなければならない。
雇止め等に関する基準
「厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。」
有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準:
- 使用者は、有期労働契約の締結後、当該契約の変更又は更新に際して、通算契約期間又は有期労働契約の更新回数について、上限を定め、又はこれを引き下げようとするときは、あらかじめ、その理由を労働者に説明しなければならない
- 使用者は、有期労働契約(当該契約を3回以上更新し、又は雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない
- 2の場合において、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない
- 2の有期労働契約が更新されなかった場合において、使用者は、労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない
- 使用者は、有期労働契約(当該契約を1回以上更新し、かつ、雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係る者に限る)を更新しようとする場合においては、当該契約の実態及び当該労働者の希望におじて、契約期間をできるだけ長くするよう努めなければならない
- 使用者は、労働者に対して無期転換申込みに関する事項(及び転換後の労働条件)を明示する場合においては、当該事項に関する定めをするにあたって労働契約法3条2項の規定の趣旨を踏まえて就業の実態に応じて均衡を考慮した事項について、当該労働者に説明するよう努めなければならない
「行政官庁は、この基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。」